しなやかに着る人に寄り添う〝江戸小紋〟の魅力
江戸小紋は、江戸時代より長く継承されてきた職人技によってその美しさを進化させてきました。 職人技の一つは、これでもかという細かい柄を染めるための型紙(伊勢型紙)の「彫り師」の技術。もう一つは、その型紙を生地に型付けし、微妙な色合いを生み出し染め上げてきた「染め師」の技術です。 長い歴史と名もなき多くの職人の手業が時代を超えて継承され、世界に誇れる豊かな美しさと慈しみ深い伝統の美をつくりあげてきました。
〝日本の伝統美を誂えるという心地よさ〟を味わってみませんか?
着物というと、豪華な振袖や訪問着を思い浮かべられることと思います。ご両親が思いを込めたであろう、まさに「特別な晴れ」の日にふさわしい雅で豪華なお着物です。 一方「江戸小紋」は、パッと見た目の雅さや豪華さはありません。でも江戸時代には武家社会で町人社会で、競いあうように江戸小紋を着ました。江戸小紋は私たち日本に生まれ育った日本人ならではの〝やさしさ〟とか〝しなやかさ〟そして〝粋さ〟が見事に演出されたお着物です。
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江戸小紋の色
江戸小紋の色は単彩です。近頃では多色使いの江戸小紋もありますが、基本は単色です。単色なので、とても色にこだわっています。 江戸時代には華美な服装を禁止した「ぜいたいく禁止令(奢侈禁止令)」が度々だされました。そのため、とても落ち着いた渋い色が多く生まれました。よく耳にする「四十八茶百鼠」ですが、これは茶色だけでも48種類なんと鼠色は百種類もの色があったということです。色相に微妙な変化を生みだして楽しむという、まさに日本人ならではの美意識が育まれました。
江戸小紋の「色」を決めるのは彩色される地色(全体に染める色)だけではありません。ぜいたく禁止令は色ばかりか華美な大きな柄も禁止していたため、江戸時代には無地と見間違うほどの、気の遠くなるような細かな柄が染められるようになりました。細かさを競いあうように、これでもかと微塵の柄が彫られ染められ、職人さんも意地と執念で細かさと色合いを競い合ったといいます。
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 【遠目で見ると】 【近くで見ると】 |
ですので、遠目には一見無地に見えますが、近づいてみるととても手のこんだ細かな柄がうめつくされているのに驚きます。この細かな柄は彩色されず白く抜かれています(目色といいます)。そのため、彩色された地色との鮮やかなコントラストが生まれます。これが江戸小紋の生命といわれています。同じ地色でも、柄や文様の混み具合や配列によって、目色の白の濃度や風合いが変わるため、全体の色合いが異なるものに仕上がります。
このように微細で微妙な領域に美を求め続けることで、江戸小紋は完成しました。実は「ぜいたく禁止」が生み出した最も贅沢な美の世界かもしれません。
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江戸小紋の柄 江戸小紋の細かな柄には、それぞれ様々な意味がうめこまれています。 まず、江戸小紋は武士の裃(かみしも)から発達したものですので、柄の基本は裃の模様からきています。他の藩との区別を象徴するため、徳川将軍家の「御召十(おめしじゅう)」、紀州徳川家の「極鮫(ごくさめ)」、加賀前田家の「菊菱」など、各藩で「定め小紋」を決めてそれぞれの柄を占有していました。 江戸中期になると庶民の間にも小紋染めの着物が流行りだします。定め小紋にはない動植物や日用品を図案化した「いわれ小紋」が発達しました。「桜」「露芝」「梅」「千鳥」や「大根とおろし金」「扇」「宝づくし」など、他にも「雪月花」「家内安全」など文字を意匠化したものなど、江戸っ子のユーモア感覚を表した柄が無数に生み出されました。色合いのみならず細かな柄がそれぞれ持つ意味合いにも注目すると、江戸小紋の魅力は計り知れないものです。
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着る人に寄り添うことで完成する江戸小紋の魅力
京小紋や京友禅は、たくさんの色使いで華やかな花鳥風月の文様が目にも鮮やかで優雅なお着物です。満開の花のような匂いたつ美しさに心を奪われます。 それにひきかえ、江戸小紋は、渋くおさえた伝統色の単彩のみで、文様は抽象化された幾何学文様であり、あまりにも細かくて近くに寄らなければわからないほどです。 けれども、だからこそ、華やかな友禅などと違い、着る人にしなやかに寄り添うことができます。あくまでも主役は着る人なのです。その方の人柄、やさしさや愁いによく調和し、ほどよく着姿を整えてくれる、そんな不思議なお着物です。 普段のちょっとした出来事に、一度袖を通してみられませんか?少し背筋が伸びて凛として、やさしくなれて、いつもとは違う丁寧な一日になるかもしれません。ちょっとした素敵な一日を積み重ねて、長い人生を愛しんで過ごしていかれますよう。 変わらない日本のやさしさと美しさのために、“染一会”では、江戸時代からえんえんと愛され続けてきた江戸小紋の魅力をお伝えしていきたいと思います。
※店主のつれづれ日記「江戸小紋の魅力」
→https://somesan.exblog.jp/24292107/
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